由利カオル

目標週一 実質月二 エッセイなど

#10「孤独は回転寿司のレーンに乗ってやってくる」

 

 

 一人暮らしというのは一種の麻薬であり、一度進むと簡単には戻れない一方通行の道路のようなものだ、と思う。誰かに時間を縛られることはなく、ご飯も自分で作っていれば食べたくないものは出てこない。同居人に気を遣う必要はないし、家事も好きな時にやれば済む。あまりにも楽すぎて、もう一度誰かと同居する未来が訪れた時に、まるで50mバックで車を運転して入口まで戻るようなその徒労と緊張状態に自分が耐えられるのか不安になるくらいだ。

 よく友人に一人暮らしをしていると話すと「寂しくない?」と聞かれるが、私に限って言えば、一人暮らしをしていることそれ自体で寂しさを感じることはあまりない。家族や友達と電話すればその日あったことは話せるし、本当に恋しくなった時には実家に帰ればいいだけだ(勿論、今のコロナ禍ではそれも難しいけれど)。だから必ずしも一人暮らしイコール孤独、ではない。

 ところでよく孤独という単語は「孤独な」「孤独である」というように形容動詞的に使われるが、「孤独」本体とどちらが先に生まれた言葉なのだろう。英語でも”Lonely”と“Loneliness”は両方ある。「孤独な○○」が生まれるのが先か「孤独」が生まれるのが先か。これもある種の卵が先か鶏が先か問題なのかもしれない。まあ今考えたばかりだけど。

 これを読んだ人は各々で考えてもらうにしても、私の見解は「孤独/Loneliness」が生まれるのが先だっただろう、という方である。孤独は名詞であり、状態を示す言葉ではない。

 言ってしまえば、孤独はモノだ。そして、回転寿司のレーンに乗って流れてくる。

 

 

 子どもの時の自己紹介シートだとか、交換ノートだとかに何を書いていたのか、正直全く覚えていない。だが、いつしか私の好きな食べ物欄は「おすし」という平仮名三文字に定まっていった。お寿司はいい。特に好きなのはホタテ、はまち、ウニ軍艦。美味しい上に家では絶対食べられない特別感、あとはその価格のリーズナブルさから、我が家の外食先は回転寿司に決まっていた。何かいいことがあれば寿司を食べ、特にいいことがなくても月に一度は寿司を食べた。今では好きすぎて、醤油の匂いを嗅ぐだけで寿司への食欲が募るという寿司中毒/Sushi-Addictionを起こしてさえいる。

 だから一人暮らしをして遠方に住んでも、寿司への欲求は変わることはなかった。醤油の匂いを嗅ぐとお腹が空くし、疲れた日にはパック寿司をスーパーで買う。資格の勉強をしに行った帰りには、自分を褒めるつもりで回転寿司チェーンに寄り道することもある。けれど、回転寿司のカウンター席に座り、一人で注文して一人で食べているとぽっかりと胸に穴が開いたような感覚に囚われる。それが孤独とかさみしさという種類のものであるということに気が付いたのはつい最近のことだ。

 私にとって回転寿司は常に他人を伴うものだった。テーブル席に座り、前には姉がいて、通路側には親が座る。昔は父親がレーン側にいたのだが、いつしか父がレーンに流れてくるよくわからないネタを「お腹空いたから」という理由で取るのが許せなくなってから、レーン側は子ども二人で固めるようになった。まず期間限定のネタを注文し、次に家族が好きな定番ネタを頼む。世の中、皿の上の二貫を各自自分で食べて枚数を重ねていく家族も多いかもしれないが、うちの家は「色々な種類を食べたいから」という理由で、よく二皿頼んで四人で一貫ずつ食べていた。そうしていると「今日はこのネタ外れだったな」という時があっても姉とガッカリ感を半分こできたし、美味しいネタがあった時には大はしゃぎでもっと頼めた。

 でも一人でカウンター席に座り、一人で注文し、一人で黙々と二貫食べている限り、決してその時のように心が満たされることはない。回転寿司が一皿二貫で流れてくる限り、そいつは永遠に孤独を引き連れている。

 そういえば、食と孤独から発想するのは「孤独のグルメ」だが、主人公である井之頭五郎に私のようなしみったれた雰囲気がないのは、きっと空間や自分とのコミュニケーションを楽しんでいるからだろうな、と思う。井之頭五郎は、誰かと一緒に食べている訳でも居合わせた客と積極的に話す訳でもない。だが客や店主の動きを観察し、発声しない方法で何かを受け取り、その雄弁すぎる心の声で盛大に反応する。美味いものがあれば美味い!と心の中で叫び、思うことがあれば心の中でぼやく。誰かとのコミュニケーションだけでなく、空間や自分とコミュニケーションを大事にすることが、孤独のグルメへの近道である……のかもしれない。まあ今考えたばかりだけど。

 

 

  さて、もう7月も終わった。このブログも記念すべき10回目ですが、10回目だからどうということはないんですよね。

 いつも拡散してくれている人達、ありがとうございます。確実にアクセス数に反映されているので、めちゃくちゃ嬉しいです。はてなスターをつけてくれる人もありがとうございます。見てくれた上で面白がってくれている(と勝手に解釈してます)ことが伝わって大感謝です。読者になるボタンとか、ブログ用のtwitterもありますのでね。ぜひぜひ。

 ふう、10回目っぽさをようやくここで出せたぜ、と一息ついたところで、今日はここまでで許されたい。来週もよろしくお願いします。終わり。

 

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(↑これははま寿司の漬けまぐろ。一人で食べても結局は美味しいんだけどね。)