由利カオル

目標週一 実質月二 エッセイなど

#12「瞬発力を鍛えろ!〜ストレス社会人編〜」

 

 

「瞬発力が足りない!!!!!!!!!!!」 

 昨今のオリンピックや子供向けシューズの販促ではなく、私的な日常の話である。

 自分で言うのもなんだが、いやなんすぎるのだが、人に優しいね、と評されることが多い人生であった。家庭内で末妹として育ったことで身についた顔色窺いスキルと言うべきか。電車に乗って、目の前に席が必要そうな人がいれば譲って感謝され、美味しいと思う食べ物も、他の家族の分を残しておけば「優しいね」と褒められる。なんだかんだと、優しさが美徳とされる世の中で、うまく立ち回ってきた自覚がある。

 もし優しさに純度100%果汁みたいな表示があるとすれば、私の優しさの成分表示は6〜7割が「こうすれば相手が喜ぶだろう」という想像と残りが「こうした方が回り回って自分にとって得だろう」という打算でできている。電車で席を譲るのも、それが美徳な社会であれば、自分の体調が悪い時に誰かが席を譲ってくれるかもしれない、という期待と祈りを込めている、と言うこともできる。

 不思議なことに、そんな不純物混じりの素振りで外側に貼り付いていたはずのアルミ箔でも、何度も繰り返すうちに、くちゃくちゃに固まって自分の芯になる。そして時々、その凝り固まった優しさに自分が閉じ込められて息苦しくなる。

 

 どんな職場にもムカつく上司や同僚の1人や2人や50人や100人やいることと思うが、皆さんはあまりにムカつくことを言われた時にどうしているのだろうか。

 例えば、期日の近い仕事をしている時に、新しい仕事を振られそうになって断った時。「それはあなたの仕事を私がやるってこと?」と言われて。

 例えば今まで教えられていなかったことをできないと素直に報告した時。「こんなこともできなくて恥ずかしくないの?」と言われて。

 優しさ美徳内面化人間の第一弾の反応はどうなるかというと、まずそういうことを言う人にびっくりする。そして第二弾の反応として「アッハイ」と声が出てしまう。第三弾、相手が去ってからようやく(なんだ今のムカつくな……)になるのだ。

 「あなたとか私の仕事じゃなくてチームの仕事なんだからつべこべ言わずやれーーっっ」とか。「全然恥ずかしくないが?? それモラハラですか?」とか。即座に言えれば良かったのだが、優しさ素振りが通貫しすぎて、ムカつく言葉にムカつく言葉で返す瞬発力が完全に鈍ってしまっている。

 結果ムカつきすぎて家帰ってからキレまくったりキレすぎて泣いたりしているのだからこちらが擦り減っているので、これは良くない状況である。

 子どもの頃、優しさは常に大切で、発揮されれば発揮されるほど良かった。でも社会人になって感じるのは、人の心の、優しさの容量には限りがあって、不要な人に振り撒く余裕も必要もないということだ。仕事なのだからやるべきことはやるのだし、それは好かれたいとか嫌われるとかとは全く関係のないことだとある程度は割り切らなければいけない。チクチク指でつついてくる人の指をカミツキガメのようにガブっと噛み付く瞬発力も、自分の心の容量を守るために大切なのだろう。

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 ……なんて悟ったように書いてはいるが、この前も先輩のどうでもいい電話に無駄に後輩としての気を遣い1時間半付き合ってしまった。いや、まあ、うん。ね。こうしていこうという方針が固まっただけでも、次の行動に影響することもあるわけだし。また月曜日が始まる。適度に切り替えをしつつ、今日はここまでで許されたい。終わり。