由利カオル

目標週一 実質月二 エッセイなど

#15「母が偉人で父が無賃運転手であった頃」

最近、車というものがいやに好きになってきている。その事実を噛み締める時、まるで自分の知らなかった一面を知るような、不思議な気恥ずかしさと嬉しさに包まれる。 というのも、少し前までの私は大の車嫌いを声高に主張してやまない一派だったからだ。父親…

#14「読書とヨリを戻した話」

読書の秋である。常々思っていたが、食欲の秋とかスポーツの秋とか、秋につける言葉を考えた人はよっぽど秋のことが好きだったんだな、という感じがする。四季の中で一番贔屓していると言っても過言ではない。「昼寝の春」とか、「滝汗の夏」とか、「布団か…

#13「ディズニー共和国よ永遠なれ」

過激なタイトルに似合わず穏健な記事なので、「過激思想の人!?」と思って記事をそっ閉じしようとしている方、どうか待ってほしい。 人間社会に生きていると嫌なことばかりなので笹食って寝ているだけでちやほやされるパンダになりてえな……と願う日々を過ご…

#12「瞬発力を鍛えろ!〜ストレス社会人編〜」

「瞬発力が足りない!!!!!!!!!!!」 昨今のオリンピックや子供向けシューズの販促ではなく、私的な日常の話である。 自分で言うのもなんだが、いやなんすぎるのだが、人に優しいね、と評されることが多い人生であった。家庭内で末妹として育ったこ…

#11「死に場所を選べない僕らは」

呪術廻戦やら鬼滅の刃やらヒット作の漫画を読んでいない。といっても、漫画は好きなので初めから読んでいなかった訳ではなく、途中で読むのをやめた。Not for meであることに気が付いたからである。 (ちなみに、こういうコンテンツの好き嫌いを話すと絶対に…

#10「孤独は回転寿司のレーンに乗ってやってくる」

一人暮らしというのは一種の麻薬であり、一度進むと簡単には戻れない一方通行の道路のようなものだ、と思う。誰かに時間を縛られることはなく、ご飯も自分で作っていれば食べたくないものは出てこない。同居人に気を遣う必要はないし、家事も好きな時にやれ…

#9「永遠に許されない罪もあるということ」

2021年7月23日PM8:00。57年ぶり二回目となる東京での夏季オリンピックが開幕した。2013年に開催地として選定された際には随分などんちゃん騒ぎだったはずだが、実際の開催が近づくにつれ明らかになったその失望に足るお粗末さは多くの人に知られる結果になっ…

#8「三行半と三分半は似ている」

これはYさん(仮名)の話なのだが。 ああ、やってしまったなあ、という気持ちでとぼとぼ歩く。何を隠そう、告白をされたデートの帰り道である。付き合ってほしい、という勢いに押され、ウンと頷いた後に(ウン……?)と猛烈に後悔し始めた。私のウン……?ポイ…

#7「わかりやすい人間になりたいというわかりにくい望み」

最近、自分という人間のわかりにくさに嫌気がさしてきて、わかりやすい人間になりたいというわかりにくい望みばかり抱いている。ああもうこの文章さえわかりにくい。だが私が言いたいのは意味が分かりやすいという意味ではなくて、つまり何が言いたいかとい…

#6「déjà vuのかたち」

USJの任天堂エリアに、まだ行けていない。 折角友人と年休を合わせて立てた大阪への旅行計画は未だ猛威を振るうコロナウイルスによっておじゃんになった。元々ゲームが好きなので、そのゲームの世界を再現したという任天堂エリアは夢の塊のようで、本当はす…

#5「昨日までのひやむぎにごめんね」

私の世界に、数日前まで「ひやむぎ」は存在しなかった、と言ったら驚くだろうか。 四月に引っ越しをするにあたり、お茶漬けやカレールーやらが実家から押しつけられた。その箱の中でそいつは眠っていたのだ。 「ひやむぎ」とでかでかと書かれたパッケージ。…

#4「ダナンの白鳩」

ダナン、という美しい街がベトナム中部にある。穏やかな海と安い物価が魅力的な発展途上のリゾート地だ。フランス植民地時代の絢爛な歴史的建造物が並ぶ観光地、ホイアンからも近く、近年インバウンド人気が高まっている。 そのダナンに、二年前、日本なら2…

#3「汝、怒りを忘れるな(メメント・ムカムカ)」

「Oさんはコロナでオトコ掴んだよな。ほら、マスクで顔半分隠れてるから」 外したとこ見たら違いすぎてビビる、と男の先輩がにや、と笑う。ヒヤ、と耳の先が冷たくなり、ざら、と心臓を無数の棘で撫でられたような不快さが胸一杯に広がる。結婚の経緯は彼女…

#2「宗教なんて無くなってしまえ」とあなたが言うので

(ホラーが苦手な方は※※※マークが出るまで飛ばしてください) 気がつくとダイニングテーブルの前に着席していた。木目の正しいテーブルの上には、豪華な晩餐が並んでいる。私の他に、私の恋人と姉がそれぞれ座っていた。誰一人喋らない。とても静かだ。 私は…

#1 「やっぱKing Gnuってすごいわ」

午後九時。ふと思い立って友達に電話しようと思った。夕食も食べ終わり、見る予定のテレビもない。資格試験の日程が三日後に迫っていたが、この時間から勉強するつもりもなかった。 一ヶ月ぶりに話すその名前を友達検索欄に入れる。仲の良かったはずの友達の…